チェロみたいな物語だった。
人の声の音域に近く、耳によく馴染む。
体に染み渡ってくる音楽を聞いているような感覚が心地よかった。
中学生の頃、唯一の心の拠り所だったチェロ。
その教室帰り、誘拐未遂に遭った橘は人との間に分厚い透明な壁を築くことで自分を守って生きてきた。
そんな彼は勤務先の音楽著作権連盟から音楽教室にスパイとして潜入。
身分を偽りレッスンを受け続けるうちに講師や仲間とうっかり仲良くなってしまい…
「講師と生徒のあいだには、信頼があり、絆があり、固定された関係がある。それらは決して代替のきくものではないのだ」